事業継続力強化計画はマーケティング活動の一環!攻めと守りの経営を実現する
自然災害等が多発している昨今、その被害規模も大きくなっていることで、緊急事態が発生した時、いかにして事業を継続していくのか、という取り組みが重視されています。
また、最近の新型コロナウイルス感染症における、いわば「コロナ対策」としても、事業継続への関心は経営者のみならず社会的に高まりつつあります。
このような状況下において事業継続力強化計画の策定が注目を集めていますが、一方で、中小企業・小規模事業者においては、まだまだ優先順位としては低い様子が伺えます。
ところが、事業継続力強化計画の策定が「マーケティング活動」にも直結する、ということであればいかがでしょうか。マーケティング活動には意欲的に取り組む事業者が多いことから、魅力的な響きには聞こえませんか。
実は、事業継続力強化計画の策定を行うことで、中小企業・小規模事業者の業績を高める(売上の増加)ことができるのです。
事業継続力強化計画の目的とは
事業継続力強化計画は、経営的な取り組みにおいては、リスクマネジメントという範疇に該当するといえます。
リスクマネジメントとは、どのようなものを言うのでしょうか。中小企業白書では、リスクマネジメントを次のように定義しています。
リスクマネジメントとは、リスクを組織的に管理(マネジメント)し、損失等の回避又は低減を図るプロセスをいい、ここでは企業の価値を維持・増大していくために、企業が経営を行っていく上で障壁となるリスク及びそのリスクが及ぼす影響を正確に把握し、事前に対策を講じることで危機発生を回避するとともに、危機発生時の損失を極小化するための経営管理手法をいう。
出所:中小企業白書2016、中小企業庁
事業継続力強化計画の策定は5つのステップで進められていくことになります。
①事業継続力強化の目的を明確にし、②災害リスクを確認・認識し、③初動対応の検討を行い、④経営資源(人・物・金・情報)への対応を決め、⑤平時の推進体制を明確にする。
この流れは、リスクマネジメントの取り組みそのものです。
そして、これらの取り組みがもたらすものは「企業価値の維持・増大」であるわけです。
言い方を変えれば、事業継続力強化計画を策定する目的は「自社の価値向上にある」、ということができます。
事業継続力強化計画は自社を守るもの
リスクマネジメントとしての事業継続力強化計画を考えれば、経営的には「守り」という観点がクローズアップされてきます。
つまり、自然災害等のネガティブな事象(リスク)が発生した時に、従業員の人命や雇用を守り、事業活動を継続することで自社を守り、社会的な損失を回避することで顧客やステークホルダー、そして社会を守るという目的観です。
このように、事業継続力の強化は、確かに守るという意味での保守的な考えが先行しているともいえますが、果たしてそれだけでしょうか。
計画策定というところに着目してみると、売上高増加(業績拡大)をもたらすということも指摘することができます。
計画策定の効果
経営計画の策定が、業績向上に寄与することはご存じでしょうか。
小規模企業白書では、経営計画の作成有無が、売上高に影響を与えることを指摘しています。
経営計画を作成したことのある事業者の方が、作成したことのない事業者に比べ、売上高が増加しているのです。
出所:小規模企業白書2016、中小企業庁
ところで、経営計画を策定することで、なぜ売上が増加するのでしょうか。
小規模企業白書によると、経営計画を策定した効果として最も多いものに、「経営方針と目標が明確になった」が挙げられており、「自社の強み・弱みを認識できた」「販路開拓のきっかけとなった」と続いています。
出所:小規模企業白書2016、中小企業庁
ここで、経営計画とはどのようなものを言うのか、確認しておきたいと思います。
「経営計画とは、自社が将来あるべき姿に到達するための道筋を示したものです」
出所:経営計画策定支援スライド、経済産業省
事業継続力強化計画が、経営計画そのものである、とまでは言い切れませんが、自然災害等の発生時であっても事業の継続ができるよう、事業継続力を強化する計画であるという意味で、自社のあるべき姿に到達するための道筋を「補完」する計画であるといえます。
つまり、事業継続力強化計画は経営計画の一種である、と言っても言い過ぎではないでしょう。
しかも、事業継続力強化計画の策定において検討する内容の中には、「自社の事業活動が担う役割」があります。これは、経営方針に近い概念です。
また、「自然災害等の発生が事業活動に与える影響」について、経営資源別(人・物・金・情報)に検討することになりますが、これは自社の強みを把握することに直結しています。
ですから、事業継続力強化計画の策定は、経営計画の策定によって得られる効果と似たものをもたらすことになります。
攻めとしての活用
事業継続力強化計画の策定によって売上増加を実現できるならば、それは守りに加えた「攻め」の経営への取り組みにつながるということです。
マーケティング的要素
事業継続力強化計画は、マーケティングに関する内容も含まれています。その意味でも、経営計画の一種といえるのですが、それは「自社の事業活動の概要」です。
ここは、事業継続力強化計画策定の出発点となっているのですが、単に事業概要を記載するところではありません。
事業継続力強化計画策定の手引きには、次のように記載があります。
「業種等に加え、自らの事業活動が担う役割(サプライチェーンで重要な部品を卸している、地域の経済・雇用を支えている等)を検討したうえで記載してください。
出所:事業継続力強化計画策定の手引き
これは、「誰に対して、どんな価値を、どのように提供しているのか」というマーケティングの観点そのものです。
そのうえで、提供している価値が継続できなくなった場合、どのような影響を社会に与えてしまうのかということを考えるのが事業継続力強化計画策定ですから、いわばマーケティングです。
マーケティングに関心のある事業者は多いと思いますが、事業継続力強化計画の策定(および認定)が、マーケティング活動の一環にもつながっていると理解すれば、自社にとって重要性や優先順位の高さに気づくことがあるかもしれません。
小規模事業者にとって、マーケティングに関する取り組みは優先課題であるからです。
直面している課題と実際の取り組み
小規模事業者はどのような経営課題に直面しているのでしょうか。
小規模企業白書によると、「既存事業商圏(販路)拡大」「既存事業の高付加価値化や工夫」「後継者や従業員の確保・育成」が上位に挙げられています。
出所:小規模企業白書2016、中小企業庁
挙げられた課題に対して、取り組みの割合は総じて下回っており、課題を認識しているのに、行動にはなかなか起こされていないということが分かります。
事業継続力強化計画を策定し、国からの認定を受けることで、これらの課題に対して取り組みを起こしやすくすることができます。
商圏や販路の拡大
事業継続力強化計画の認定を受けると、「事業継続力強化計画認定ロゴマーク」を使用することができるようになります。
認定ロゴは、マーケティング活動において、販売促進ツールとして活用することで、顧客獲得など販路開拓を実現することができます。
具体的には、名刺や企業パンフレットなどでの活用があります。
小規模事業者にとっては、既存顧客(リピーター)との関係性強化が経営上非常に重要となることが多いですが、認定ロゴは既存顧客とのコミュニケーションにも活用することができます。
詳しくは、事業継続力強化計画の認定ロゴはどう使う?効果的活用法4つをご覧ください。
既存事業の高付加価値化や工夫
事業継続力強化計画はまだそれほど普及しておらず、ごくわずかな中小企業・小規模事業者しか認定を受けていません。
「国からの認定」を受ける事業継続力強化計画は、事業継続に対してしっかりとした取り組みを行っている事業者として、信頼性をアピールすることができます。
信頼性というのは、近年の経営において非常に重視されているものです。
小規模企業白書では、売上増加要因と減少要因について、事業者へのアンケート結果をまとめています。
売上が増加した事業者の回答では、売上増加要因としては、「得意先や固定客」と「商品・サービスの品質と信頼性」が大きく影響しているとなっています。しかし、売上が減少した事業者によると、要因として「商圏自体(取引先や顧客)の景気」が大きく影響していると挙げており、信頼性に関しては売上減少の理由としてほとんど挙げられていません。
出所:小規模企業白書2016、中小企業庁
この結果を、小規模企業白書では文中において「このことは、売上高が減少傾向の者が「商品・サービスの品質と信頼性は低くないものの、商圏自体の景気が悪いために売上高が減少傾向になっている。」と捉えていることの現れであり、他律的要因に減少傾向の要因を求めていることが分かる」と分析しています。
いずれにしても、上図を見る限り、「信頼性を高める取り組みは売上高の増加に寄与する」ということが言えるのは疑いようのない事実です。
売上が順調な事業者は、事業継続力強化計画の認定を受け、自社そのものの信頼性を高めることで更なる売上増加を実現できる可能性があります。また、売上が減少している事業者は、売上減少の理由が何なのかということを無理に特定する必要はなく、信頼性を上げる取り組みを事業継続力強化計画の認定を受けることを通じて行うことで、売上回復を図ることができる可能性があります。
信頼性の活用について詳しくは、「事業継続力強化計画が認定されました」という発信が大切な理由、をご覧ください。
後継者の育成
事業継続力強化計画は、経営者が策定しなければならない、という決まりはありません。
むしろ、今後発生することが予想されている「首都直下型地震」や「南海トラフ地震」は今後30年以内に発生する確率が高く、実際にこれらの自然災害に遭遇し、立ち向かわなければならない世代は、現在の経営者よりも後継者である可能性が高いといえます。
事業継続力強化計画の策定を後継者が担うことは、後継者の育成という観点でも有益です。また、スムーズな事業承継の潤滑油として機能させることもできる可能性があります。
後継者や事業承継については、事業継続力強化計画は事業承継に有効!後継者や若手の策定が鍵、をお読みください。
事業継続力強化計画を守りと攻めの経営に活用する
小規模企業白書では、経営計画を作成したことのある事業者は、半数しか存在しないことを指摘しています。
出所:小規模企業白書2016、中小企業庁
市場環境が目まぐるしく変化する中にあって、企業間競争は激しさを増しています。事業継続力強化計画の策定によって、自社の価値を高め、攻めの経営へと活用することを通じて、ライバルに対して差をつけることが可能となるといえそうです。
事業継続力強化計画は策定するだけでも事業活動にさまざまなメリットをもたらしますが、経営者が率先して「守りだけでなく、攻めにも活用していく」ことで、守りと攻めの経営を実現するきっかけにすることができるのです。
事業継続力強化計画のメリットについては、こちらで確認してください。