事業継続力強化計画は事業承継に有効!後継者や若手の策定が鍵

事業継続力強化計画

事業継続力強化計画はスムーズな事業承継の潤滑油になる

事業継続力強化計画は、事業承継という課題に対しても有効に機能します。

事業継続力強化計画の策定において、事業の目的や経営資源などについて確認・検討を行うプロセスに後継者や若手(幹部候補生)従業員を関与させることは、自社の事業を継続するための能力強化だけでなく、自社の事業を守ることや引き継いでいくという意味で、スムーズな事業承継を実現する礎を築くことができるのです。

中小企業・小規模事業者の事業承継について

我が国において、中小企業・小規模事業者は日本経済を支える極めて重要な存在ですが、その現場では、「事業承継が大きな課題になっている」、ということはあまり知られていないようです。

中小企業の社長や個人事業主の代表者(自営業者:個人経営の事業を営んでいる者)の年齢階級の推移を見ると、どんどん年齢層が高齢化していることが分かります。

年齢階級別に見た自営業主数の推移
(出所:小規模企業白書2019、中小企業庁)

018年においては、70歳以上の個人事業主が90万人存在しており、20年前の倍近くの人数となっています。これは、2000年に50歳代だった個人事業主が、事業承継を行わないままの状態で20年ほど経過しているもの、と考えることができます。

事業承継が円滑になされないことに関してはさまざまな理由があるにしても、このままでは時間が経過するごとに経営者(社長・事業主)の高齢化に伴う廃業が急増する可能性が指摘されており、事業承継は日本において喫緊の課題と言われているわけです。

大型の自然災害はいつ来るのか

近年、日本においては自然災害の発生が多発し、増加傾向にあるほか、その被害額も大規模化が見られます。

我が国の自然災害発生件数及び被害額の推移を見ると、1995年の阪神淡路大震災、2011年の東日本大震災の被害額が顕著に大きなものとなっていますが、この図表には含められていないものの、直近でも令和元年東日本台風や平成30年7月豪雨(西日本豪雨)などが発生しており、被害の大きさは記憶に残るところです。

我が国の自然災害発生時件数及び被害額の推移
(出所:小規模企業白書2019、中小企業庁)

年々自然災害が多発していることからも、事業の継続に備えた取り組みの必要性は高いことが指摘できるわけですが、今後、特に発生確率と危険性が極めて高く予測されているものに、「首都直下地震(首都直下型地震)」と「南海トラフ地震」の2つがあります。

首都直下地震

「首都直下地震」に関してはご存じの方も多いでしょう。政府の地震調査委員会の予測によると、今後30年以内に70%の確率で起きるとされている地震です。

マグニチュード7程度の大地震と言われており、首都直下地震が起きた時、最悪の場合には死者はおよそ2万3,000人、経済被害はおよそ95兆円に達する(出所:中央防災会議)と想定されています。

1600年以降に南関東で発生した地震(M6以上)
(出所:平成24年版防災白書、内閣府)

一定の周期で大規模地震が繰り返し起きているのが特徴です。

南海トラフ地震

静岡県の駿河湾から九州の日向灘にかけての海底にあるのが「南海トラフ」です。南海トラフは、定期的にひずみを開放することで知られ、その都度大地震をもたらしています。

今後、大規模な地震の発生確率は、30年以内に70~80%、50年以内では90%以上の確率で起きるとされている地震です。

政府によると、南海トラフの巨大地震が今後起きた時、最悪の場合には、死者は32万人超、経済被害は220兆円を超えると想定しています。

東海地震と東南海・南海地震について
(出所:防災情報のページ、内閣府)

現在の若手世代が影響を受ける可能性が高い

首都直下地震にしても、南海トラフ地震にしても、今後30年以内で70%を超える確率で発生するとされており、今すぐにでも対応策が求められるのは当然のことです。

にもかかわらず、中小企業・小規模事業者においては、対策が進んでいるとはいえません。

ここで肝心なことは、これらの大規模な自然災害に実際に立ち向かうのは、現時点での経営者ではなく、現在20代~30代の若手や後継者であるということです。

自分の身はもちろん、他の従業員の安全を守り、会社を倒産させないように事業を継続させていくという役割を担うのは、現在の若手であるという可能性が高い。ですから、良くも悪くも現経営者にとっては、自分事として捉えきれていないという可能性も指摘できます。

将来に対する投資としての側面をも持つ事業継続に向けた備えは、世代を超えて取り組んでいく必要があるわけです。

事業継続力強化計画の策定に関していえば、現経営者と後継者・若手社員がタッグを組んで策定することで、自社の情報共有を行うことができ、かつ、後継者教育の一環として機能させることも可能です。

事業継続力強化計画の策定内容が事業承継に役立つ理由

事業継続力強化計画は、大きく5つのステップにより策定を進めるようになっています。

  • Step1.事業継続力強化計画の目的の検討
  • Step2.災害リスクの確認・認識
  • Step3.初動対応の検討
  • Step4.人、物、カネ、情報への対応
  • Step5.平時の推進体制

これらはすべて、若手従業員や後継者に対する事業承継の教育に役立つものとなっています。

Step1において、「なぜ、自社の事業を継続しなければいけないのか」、という問いかけを通じて、自社が地域や社会にとってどんな存在であるのか、その役割や存在意義を理解することができます。

Step2では、自社の立地特性を踏まえ、どのような災害リスクを有しているのかについて、客観的に確認し、認識を深めることができます。

Step3では、災害等の緊急時が発生した時、自分たちがとるべき行動について、人命の安全確保や取引先・顧客への連絡など、最低限の内容について決めることができます。

Step4では、自社が遭遇する可能性の高い自然災害に対して、人・物・カネ・情報の経営資源の中から特に重要なもの、あるいはすべてについて、事前にどのような対策を行えばよいのかについて検討することができます。

Step5では、自然災害を想定して、普段からどのような体制を構築しておく必要があるのか、従業員の教育や計画の見直しなどについていつ行うのかといった具体的な取り組みを検討することができます。

事業継続力強化計画は、緊急時に事業を継続するうえで必要な最低限の能力を強化するという趣旨ですから、Step1からStep5までのすべての内容が重要であるのは当然ですが、事業承継への橋渡しという観点でもすべての検討が有用であるといえます。

事業承継に際して行う後継者教育

スムーズな事業承継を実現するためには、後継者に対してどのような教育を行う必要があるのでしょうか。

実際に、小規模事業者が実施した後継者教育の内容と、効果のあった内容についての調査データがあります。

実施した後継者教育の内容(個人事業者)
実施した後継者教育の内容(小規模法人)

調査によると、個人事業者では「自社事業の技術・ノウハウについて社内で教育を行った」「資格の取得を奨励した」が高い効果があったという回答が多く、小規模法人では、「自社事業の技術・ノウハウについて社内で教育を行った」「経営について社内で教育を行った」が挙げられています。

いずれにおいても、自社事業の技術・ノウハウに関する教育の重要性を指摘することができます。

事業継続力強化計画の策定では、自社の経営資源(人・物・カネ・情報)に対して、災害発生時にどのような影響を受けるのか、そして、その影響に対して事前にどのような対策を行うのか、ということを考えていくことになります。

経営資源とは、自社の事業を継続するうえで中核となるものであって、自社の技術・ノウハウに他なりません。

「自社事業の技術・ノウハウ」をあらためて振り返り、かつ、それを守るための対応策を検討するというのは、事業承継の教育という観点でも有効であるのと同時に、強みをさらに強化するという意味で攻めの経営にもつながるものです。

また、事業継続力強化計画は、その策定後に能力強化による実効性をさらに高めるため、訓練や見直しが重要となります。

このような取り組みは、大規模な自然災害を経験することになる可能性が高い若手や後継者が率先して行動することがポイントになりますので、事業継続力強化計画の策定に巻き込むことは重要だといえます。

事業継続力強化計画の策定に後継者・若手を巻き込む

経営者一人で事業継続力強化計画を策定することももちろんできます。しかし、現在の経営者年齢によっては、30年後に現場で陣頭指揮を執ると予定される人材(若手や後継者候補)も策定メンバーに巻き込むという方法も有益でしょう。

せっかくですから、経営者は口を出さずに後継者に任せてみるというのも一つの方法です。ただし、事業継続力強化計画は、経営者層のコミットメントが必要ですので、最終的なチェックは経営者が行うことが求められます。

後継者や若手従業員が、現場目線から経営者目線へと視点が上がり、経営に対しての意識を高め、自分たちがしっかりと事業を継続させるんだ、守るんだという認識ができてくれば、事業の継続力は確実に強化されたといえるはずです。

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