事業継続力強化計画は代表者のみの個人事業主やフリーランスも対象?
事業継続力強化計画の認定を受けられる対象企業
一人で事業を行っている個人事業主や、個人で活動しているフリーランスは事業継続力強化計画の認定を受けられる対象なのでしょうか。
結論を言えば「対象」となります。
ただし、条件があります。その条件とは、税務署に対して開業届が提出されていること。提出された時期は問われていませんので、提出さえされていればそれが昨日であっても大丈夫です。
事業継続力強化計画の認定を受ける際、申請時に「開業届の控え」を添付する必要はなく、申請時に添付する「チェックシート」に開業届を提出済みであることを自己申告するようになっています(2020年6月現在)。ですから、開業届の控えが手元にない場合でも、問題なく申請することができます。
また、過去に開業届を提出した記憶がないということであっても、個人事業主として税務署に確定申告を行っているようであれば、開業届はすでに提出されているという認識になるため、問題ないでしょう。
事業継続力強化計画策定の手引きで確認
事業継続力強化計画の認定を受けられる対象者は、「事業継続力強化計画策定の手引き」に記載があります。
(出所:事業継続力強化計画策定の手引き、中小企業庁、令和2年5月19日版)
規模により対象かどうかがが決まるようになっており、いわゆる「中小企業者」であれば、業種や形態(法人であるか個人事業主であるか)を問わず対象者になります。
常時使用する従業員の数については上限が設けられていますが、下限はありません。
このため、「社長のみの会社」、「代表のみの個人事業主」、「フリーランス」も該当することになります。
日本は小規模な事業者が多い
我が国においては、規模の小さな会社・事業者が多いことはあまり知られていません。
近年、日本全体での企業数は減少の一途をたどっているのですが、それでも中小企業がそのほとんどを占めている事実に変わりはありません。
中小企業庁によると、2016年の企業数は359万者であり、そのうち大企業は1.1万者となっています。言い換えれば、日本の企業のうち97%は中小企業ということになります。
(出所:小規模事企業白書2019、中小企業庁)
また、385万者の中小企業のうち、約 9割となる334万者を小規模事業者が占めています。小規模事業者とは、従業員数が製造業・その他は20名以下、卸売業・小売業・サービス業は5名以下の企業・個人事業主のことを言います。
急増するフリーランス
開業率が低下していた日本ですが、最近は起業者も増え、開業率も高まりつつあります。2012年~2016年の間に、全体で46万者が開業しており、このうち小規模な開業は38.6万者と全体のおよそ84%を占めています。
(出所:小規模企業白書2019、中小企業庁)
特定の組織に属さず、自らの持つ技術や技能、スキルをよりどころに個人で活動する人を「フリーランス」と呼んでいます。フリーランスは組織に属していないため、個人事業主としての扱いを受け、小規模事業者に該当することになります。
したがって、フリーランスとして活動することを決めた人は、小規模事業者として起業・開業することになるわけですが、このような起業形態が急増していることを小規模企業白書では指摘しています。
起業(開業)した者のうち、フリーランス(雇用をしていない起業家)での起業者は46.2%も存在しています。
(出所:小規模企業白書2020、中小企業庁)
最近の起業・開業ブームは、ITなどのインフラを背景に、フリーランスで活動する人(起業する人)が増えた、ということが言えるでしょう。
事業継続力強化計画は小さい事業者ほど必要性が高い
国(経済産業大臣)の認定制度である事業継続力強化計画、と聞くと、一人で事業を行っている個人事業主や、一人で活動しているフリーランスにとっては、非常に敷居の高いことのように感じるようです。
しかし、実際には、そのような一人や少人数で活躍する企業・事業者ほどこの制度を活用して、事業継続について真剣に考えておく必要があることも事実でしょう。
もちろん、規模の大きな会社や、生活を支えるインフラを担う業種は、いかなる緊急時にあっても事業を継続することが社会から強く要請されるのは間違いありません。とはいえ、小規模事業者であっても、地域の経済を支えているという点では同じであり、地域内に与える影響も決して小さなものではありません。
小規模事業者が与える影響の大きさ
例えば、商店街もなく限られたお店しか存在しない山間部の地域において、代表者が一人で営む小型のスーパーマーケットがあったとしましょう。地震が発生し、その揺れによって代表者がケガをした結果、スーパーマーケットを営業できないとなれば、その地域に住む住民は食料などの入手ができない事態を生じてしまうかもしれません。
高度な専門技術を有するフリーランスが、さまざまな業者が集まることによって進められているプロジェクトに参画していたとします。フリーランスが、新型コロナウイルス感染症に罹患してしまったならば、完全隔離される可能性があります。それによって、そのプロジェクトが停止してしまうことで納期に間に合わず、関係者含めさまざまなステークホルダーに多大な影響を与えてしまうかもしれません。
個人や少数で事業を行うというのは、何よりも柔軟であるという特徴を有する反面、個人の身に何かあったような場合にはすべてが停止するということも言えます。柔軟である代わりに極めて脆い存在であるわけです。
事業継続を真剣に考えておく
事業継続力強化計画を策定すれば、緊急事態が発生した場合に備えた対策を考えることができます。実行するかどうかは本人次第ですが、それほど難しい対応策でなければ、むしろ、対策を行うことで取引先や顧客から信頼を獲得することに役立てることができるはずです。
前述したスーパーマーケットの店主であれば、緊急時には家族がお店を開け、営業を継続できるようにしておくという方法が考えられます。配偶者に開店から閉店までの流れを一通り教え、数回訓練を行っておけば緊急時に対応が可能でしょう。
フリーランスの場合には、どのような事前対策を行っておけば良いでしょうか。
このように、自らが置かれている事業環境などを踏まえ、緊急時の対応策をステップに沿って考えていくのが事業継続力強化計画です。そして、考えたことを取りまとめた計画書を申請することによって、経済産業大臣から認定を受ける制度が、事業継続力強化計画の認定制度です。
計画そのものはA4用紙4枚ほどの分量であり、初めての策定でもそれほど難しいものではありません。
小さな企業や個人事業主は、仕事を獲得する、売上をアップするという取り組みも大切ですが、自らの事業をしっかりと継続するということも非常に重要なのだ、ということを事業継続力強化計画の策定によってあらためて認識することができます。
このような取り組みが、結果的に仕事の獲得というところにもつながっていき、信頼性を高めることができます。
事業継続力強化計画の認定を受けたことは、広くアピールすることでメリットがあります。
小規模個人事業主やフリーランスの方がスピーディーに作成できる
事業継続力強化計画は、小規模の個人事業主や一人で活動するフリーランスの方が策定しやすいと言えます。
個人事業主やフリーランスは、単一の事業のみを行っていることがほとんどであり、かつ、代表者のみというケースも多くなっています。
事業継続力強化計画の策定では経営者層のコミットが不可欠であり、個人事業主やフリーランスの場合には代表自身が作成者(策定者)となることが多いため、自分だけの判断や決定に基づきながら作成を進めることができるのです。
申請などの手続きも自分で行うのは面倒だという考えもあるかもしれませんが、自分で行えばそれで済むのですから、ある意味で作成から申請までを極めてスピーディーに進めることができます。
たとえ、申請後に国から修正指示があっても自分で作成しているのですから、修正対応もスムーズに行うことができます。
当サイトでは、事業継続力強化計画を初めて作成・策定する事業者に向けて、申請までの流れを整理して紹介しています。せっかくの機会ですから、個人事業主やフリーランスの方は自分で事業継続力強化計画の認定を受けてみたらいかがでしょうか。
実際に、代表一人だけの個人事業主やフリーランスが事業継続力強化計画の認定を受けるケースが増加しています。