事業継続力強化計画の策定はSDGsやCSR活動の第一歩に!
CSR(Corporate Social Responsibility)は、「企業の社会的責任」を意味する言葉です。日本においては、2010年頃から盛んに提唱されるようになった考え方で、その背景には企業の不祥事や、グローバル化がありました。
CSRに対する取り組みは、大企業だけではなく、中小企業・小規模事業者に対しても強く求められているものですが、実際には中小企業・小規模事業者においてはほとんど取り組まれていないのが現状です。
その理由に、そもそもCSRがどのようなものであり、具体的に何をどのように取り組めばよいのか分からない、といったものが挙げられます。
ところが、事業継続力強化計画の策定を行うことが、CSRとしての活動につながるとしたらどうでしょうか。
近年、SDGs(これがどのようなものなのかについて、後ほど簡単に解説をします)も注目を浴びていますが、これを発端に、あらためてCSRへの取り組みが強く求められるなか、事業継続力強化計画の策定を関連付けて捉えてみるのはいかがでしょうか。
CSRとは
CSR( Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)とは、統一された定義が存在するわけではありませんが、理解しやすいものとして、経済産業省では次のように説明しています。
「企業の社会的責任」とは、企業が社会や環境と共存し、持続可能な成長を図るため、その活動の影響について責任をとる企業行動であり、企業を取り巻く様々なステークホルダーからの信頼を得るための企業のあり方を指します。
出所:「企業会計、開示、CSR(企業の社会的責任)政策」、経済産業省
事業活動は、顧客をはじめとするステークホルダーあってのもので、いわば社会とのコミュニケーション活動が要になっています。社会環境が大きく変革するなかで、企業が永続的に存在・発展していくためには、企業自身が社会の一員としての責任を果たし、社会に貢献し続ける存在であることが必要です。
そこで、社会環境への配慮や、地域社会参加による地域貢献、などがCSR活動として注目されてきたのです。
CSRへの取り組みは大企業が主導するかたちで行ってきたこともあり、利益を目的としないような慈善活動というイメージを持っている人も多いようです。
しかし、CSRの範囲はもっと広く捉えることができ、いわば、「ステークホルダーにとってプラスになること」だといえます。
ですから、環境への取り組みや地域課題への貢献といったものだけでなく、安心・安全な製品やサービスの提供、誠実な顧客対応、安全や健康に配慮した労働環境の整備、といったものも当然にCSRの範囲に含まれることになります。
CSRに対する認知・取り組み状況
東京商工会議所が行った調査では、CSRに対する認識と自己評価において、中小企業と大企業との間に、大きな差があることが分かります。
出所:「企業の社会的責任(CSR)」についてのアンケート調査、2005年7月12日、東京商工会議所
2005年に行われた調査であるため、現在の数値は少し変わっていると考えられますが、それでも中小企業のCSRに対する認識と自己評価は低い水準であることに違いありません。
事業継続力強化計画とCSR
そもそも、事業継続力強化計画の必要性として、事業環境のスピードが速まった環境下においては、それぞれの企業が事業を停止するということの社会に与える影響が非常に大きなものとなっていることが背景にあります。
そこで、事前に事業継続力の強化を行っておくことで、復旧までのスピードを高め、自社の事業停止による影響を最小に抑えることで、社会へ貢献していくことが、事業継続力強化を行う目的です。そのための手法として、事業継続力強化計画の策定があるわけです。
これは、まさにCSRの考え方そのものと言っても過言ではありません。
本来のCSRは、企業が社会に与えるおそれのあるネガティブな影響に対し、責任をもって対処することを指していることからも、事業継続力強化計画とCSRには強い関連性があることを指摘することができます。
事業継続力強化計画の策定を行うことで、中小企業・小規模事業者にとってCSRへの取り組みとしての第一歩とすることができるのです。
事業継続力強化計画とステークホルダー
事業活動を行ううえで、ステークホルダーの存在は極めて重要なものですが、事業継続力強化計画の策定を行うことで、ステークホルダーにどのようなメリット(価値)が提供できるでしょうか。
投資家に対して
中小企業・小規模事業者の投資家は、利益を上げるということ以上に、「企業を存続させてほしい」という考えが強いでしょう。上場企業のように株式を売買して儲けるという目的に乏しく、会社を応援したいという気持ちの方が強いと想定されるからです。
事業継続力強化計画によって、自然災害等に対する強い会社づくりを実現することは、投資家の持つ期待に応えることにつながります。
顧客に対して
顧客が安全で安心できる製品・サービスを求めているのは説明の必要がないでしょう。昨今のコロナ騒ぎにおいて、高価格でありながらも国産のマスクが消費者から強く求められたことは記憶に新しいところです。
事業継続力強化計画は、自然災害等が発生した場合に、顧客へのいち早い状況報告を行い、早期の復旧による製品・サービスの提供を実現することで、顧客の期待に応えることにつながります。
従業員に対して
会社が倒産・廃業すれば、従業員は職を失い、不安定な生活を強いられることになります。また、多くの会社において従業員は最大の経営資源ともいえるものであり、自然災害等の発生をきっかけに、不安定な経営状況が続くことによって、優秀な従業員が離れてしまえば、経営自体が危ういものとなってしまいます。
事業継続力強化計画を策定することで、従業員の人命を守るだけではなく、雇用をしっかりと維持することで、従業員と従業員の家族、そして地域社会に貢献することができます。
社会に対して
中小企業・小規模事業者は地域を支える存在であり、事業を継続すること自体が、地域社会への貢献へとつながっていきます。
また、投資家・顧客・従業員といった直接的なステークホルダーには、家族やさまざまな団体など、間接的と言えるステークホルダーが存在しています。直接的なステークホルダーへの貢献を通じて、相互作用により間接的ステークホルダーにも影響を及ぼし、結果的に地域、そして社会全体へとメリットを広げていくことができるようになります。
このように、事業継続力強化計画の策定を通じて、ステークホルダーが有する期待に応え、信頼の獲得を通じて企業価値を高めることができるようになります。これは、CSRの観点からも同様の説明ができるでしょう。
CSRの取り組み効果
実際に、CSRへの取り組みを行うことで、企業においてはどのようなメリットを得ることができるのでしょうか。
調査によると、中小企業においては、「企業イメージの向上」が最も多く、「販売先・仕入先との関係強化」、「従業員の満足度向上」と続いています。
出所:「企業の社会的責任(CSR)」についてのアンケート調査、2005年7月12日、東京商工会議所
CSRと聞くと、どちらかというと「守り」というイメージが強いかもしれませんが、取り組みの効果として「攻め」の結果を得ることができていることは注目に値するところです。
事業継続力強化計画の策定・認定に関しても、守りの経営としてではなく、攻めの経営に使うことができることを示唆しているといえるでしょう。
SDGs(エスディージーズ)とは
ここ最近、特に「SDGs」という言葉が注目されています。
SDGs(Sustainable Development Goals )は、エスディージーズと読み、「持続可能な開発目標」のことです。
2015年の国連サミットにおいて、全会一致で採択され、2030年までに達成を目指す国際目標です。
持続可能な開発目標と言われてもなかなか分かりにくいのは当然のことです。もう少し簡単に言えば、「地球環境や経済活動、人々の暮らしが豊かで、活力ある未来をつくるため目標を定め、2030年までの達成を目指す世界規模の取り組み」と説明することができます。
SDGsは、大企業を中心に取り組みが進められており、SDGsが注目されるに伴って、CSRもあらためて見直されるようになってきています。CSRの方が古くからある概念で、SDGsは最近になって登場した考え方ですが、両者は何が異なるのでしょうか。
CSRは、企業が社会や環境と共存し、持続可能な成長を図るために取り組まれるものであり、SDGsは、持続可能な社会をつくるために取り組まれるものですから、両者の目的観はほぼ同じです。
CSRは、企業を取り巻く様々なステークホルダーからの信頼を得るための企業のあり方を指すものですから、ステークホルダーに対する取り組みが中心となります。一方、SDGsは解決しなければならない社会的課題(17の目標)が既に提示されており、自社の事業活動がSDGsの達成にどのように貢献できるのかを考え、取り組むことになります。
このように、両者の目的は似たものですが、そこに到達するために取り組むアプローチが異なると言えそうです。
SDGsの認知度および対応状況
SDGsは、大企業だけではなく、中小企業においても取り組みが求められるところですが、まだまだ認知度は高くありません。
関東の中小企業におけるSDGsの認知度・対応状況についてのアンケート調査では、中小企業の大半がSDGsを知らないということが分かります。
出所:中小企業白書2019、中小企業庁
事業継続力強化計画の策定は、CSRとしての取り組みの一環であり、かつ、SDGsとしての取り組みにもつながるものです。
事業継続力強化計画の策定を機会に、SDGsについてもさらなる理解が進み、取り組む中小企業・小規模事業者が増えることによって、より社会は豊かになっていくのです。