事業継続力とは?事業継続力強化計画では3要素に分解できる

事業継続力強化計画

度重なる自然災害や新型コロナウイルス感染症の影響もあって、事業者のみならず社会からも注目されている事業継続力強化計画ですが、そもそも「事業継続力」とはどのようなものを言うのでしょうか。

「事業継続力」に関して明確な定義があるわけではありませんが、3つの要素に分解して考えることができます。

事業継続力とは

まずは、「事業継続」について確認しておきます。事業継続(Business continuity:BC)という用語について明確な定義は存在しませんが、内閣府によると次のような説明がされています。

事業継続

企業は、災害や事故で被害を受けても、取引先等の利害関係者から、重要な業務が中断しないこと、中断しても可能な限り短い期間で再開することが望まれています。また事業継続は企業自らにとっても、重要業務中断に伴う顧客の他社への流出、マーケットシェアの低下、企業評価の低下などから企業を守る経営レベルの戦略的課題と位置づけられます。

出所:内閣府防災情報のページ

もう少し簡単に整理すると次のようになります。

事業継続とは、災害等を受けた場合でも、重要な業務を中断しない、中断しても可能な限り早く再開するための企業を守る経営レベルの戦略的課題

そして、事業継続力とは文字通り、事業継続の力(チカラ)ということになりますので、「事業継続力とは、事業継続を実現することができる企業(組織)の力」と整理することができます。

なお、事業継続力強化計画基本方針(令和元年7月16日)においては、「事業継続力強化」について次のように説明されています。

第8 中小企業の事業継続力強化
1単独で行う事業継続力強化の内容に関する事項
一 事業継続力強化
「事業継続力強化」 とは、 自然災害又は通信その他の事業活動の基盤における重大な障害 (以下「自然災害等」という。)の発生が事業活動に与える影響を踏まえて、当該影響の軽減及び事業活動の継続に資する対策を事前に講ずるとともに、対策の実効性を確保するための取組を行うことにより、自然災害等が発生した場合における事業活動を継続する能力の強化を図ることをいう。

この説明によりますと、事業継続力とは「自然災害等が発生した場合における事業活動を継続する能力」のことであり、事業継続力強化とは「自然災害等の発生が事業活動に与える影響を踏まえて、当該影響の軽減及び事業活動の継続に資する対策を事前に講ずるとともに、対策の実効性を確保するための取組を行うこと」となります。

事業継続力の3つの構成要素

事業継続力は、その構成要素を3つに分解することができると考えられます。ぞれは、「ソフト」「ハード」「能力」の3つです。

事業継続力の3つの構成要素(ソフト:計画、ハード:事前対策、能力:教育・訓練)

ソフト

ソフトとは、計画のことです。

自然災害等の緊急事態が発生した際、事業継続に向けた行動を実際に起こすことができるようにするためには、計画の有無がポイントになります。

ハード

ハードとは、事前の対策のことです。

事業継続に向けて発生可能性の高い自然災害等から、自社の経営資源(人・物・金・情報)を守るための取り組みです。

能力

能力とは、会社や従業員の対応スキルのことです。

緊急事態が発生した際、事業継続に向けて適切な行動を従業員が起こせるようになるために、定期的かつ継続的な教育・訓練が求められます。

3要素の相互関連性

例えば、ソフトとハードは連動していないと高い効果は期待できません。事前対策がしっかりと考え抜かれた計画に基づくものでなければ、対策は行えているものの、優先順位の低い対策を行っている恐れがあります。地震の発生確率が高い事業者が、とりあえず何かしようと考えて水災に対する事前対策を行っても、事業継続に向けた取り組みとして高い実効性を期待することはできないでしょう。

もちろん、どんなに優れた計画を策定できても、それに基づいた事前対策を行うことをしなければ、事業継続に向けた取り組みとしては不十分だといえます。このように、ソフトとハードには一貫性や連動性が求められます。

同様に、能力についても、ソフトやハードと密接に関連しています。

計画を策定しても、従業員がその計画を知らなければ意味がありません。また、知っていても訓練などを定期的に行っていない場合にはいざという時に行動に起こすことができません。事前対策にしても、従業員にどのような計画に基づいて、何に対する対策を具体的に行ったのかを知らせる必要があります。

ソフト(計画)など存在しなくても、ハード(事前対策)と能力(教育・訓練)がしっかりとできていれば問題ないという考え方もできますが、すべての従業員が計画に相当する内容を漏れなく理解し、自分のものとしている状態を実現するのは、不可能とまでは言いませんがとても難しいはずです。また、計画を策定していない場合には、事前対策の有効性に疑問もありますし、新しく入社する従業員にどのように伝えていくのか、といったさまざまな問題が生じることがあります。

このように、ソフト・ハード・能力は3つで1セットと考えることができます。

まずは事業継続力を獲得する

事業継続力を高めるためには、事業継続力を自社内に保有(獲得)することが前提となります。つまり、事業継続に対する「ソフト」「ハード」「能力」を自社内に準備すれば良い、ということになります。

今までは、事業継続力を高めるための出発点と言えるものに「事業継続計画(BCP)」がありました。しかし、事業継続計画は策定のハードルが高い(策定するのが難しい)こともあって、中小企業や小規模事業者においてはなかなか普及に至らなかったのです。(事業継続力強化計画と事業継続計画(BCP)の違いとは

そこで登場したのが、事業継続力強化計画です。

事業継続力強化計画は、事業継続に初めて取り組む中小企業・小規模事業者にとって、策定のハードルが低く、新型コロナウイルス感染症の影響もあって非常に注目されています。

事業継続力は、ソフト・ハード・能力の3要素によって構成されますが、その出発点に位置付けられるのがソフトの整備であり、「事業継続力強化計画」が該当します。

事業継続力強化計画の内容

事業継続力強化計画では、大きく次の4項目を検討・策定することができます。

これらの内容を取りまとめた計画を申請することで、認定を受けることができる認定制度が運用されています。

  1. 事業継続力強化の必要性の認識
  2. 脅威と発生時の被害発生の認識
  3. 必要な事前対策の抽出と実施計画策定
  4. 初動対応体制と行動プロセスの明確化

事業継続力強化計画(ソフト)を策定することができれば、それに基づいて従業員への教育・訓練を通じて能力を高めることができるようになります。また、事業継続力強化計画に基づいて事前対策(ハード)を行うことで、自然災害等への対応力を高めることができるようになります。

これら3つの要素は、それぞれが相互関連性が高いため、それぞれを一連のシステムとしてPDCAによって回していくことで事業継続力を強化することができます。

事業継続力強化計画では、策定した内容に基づいて、訓練・教育の実施や計画の見直しについても検討することが要求されており、事業継続力を強化するためにPDCAの仕組みが組み込まれていることを指摘することができます。

さらに事業継続力を高めるために

事業継続力強化計画を策定し、計画通りに運用することによって、事業継続力を高めることは十分に可能です。

そして、さらに事業継続力を強化していきたいという場合にはどのような選択肢が準備されているのでしょうか。

その一つの方法は、事業継続計画(BCP)へのステップアップです。

事業継続力強化計画から事業継続計画(BCP)へのステップアップ
(出所:平成30年度中⼩企業等強靱化対策事業「指導人材向け研修会」テキスト、令和元年8月6日、株式会社富士通総研)

事業継続力強化計画の策定は、中小企業や小規模事業者が事業継続力を保有・獲得するための第一歩であり、ゴールということではありません。その先には、事業継続計画(BCP)の策定や、更なる取り組みも考えられます。

とはいえ、事業継続力強化計画はシンプルな内容でありつつも実効性の高いものとなっており、事業継続への取り組みが初めての中小企業・小規模事業者にはたいへん注目されているものです。

事業を行う者として、自然災害等の備えについてまずは事業継続力強化計画の策定(認定)を出発点としていくのが、今後のスタンダードになるのは間違いないでしょう。

あなたの会社では、事業継続力の獲得はできていますか。

事業継続力強化のメリットはこちらで確認してみてください。

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